最低賃金2026年度の引き上げ、企業の対応チェックリスト

全国加重平均1,177円。給与マスタ改定から契約書対応まで、発効までにやることを時系列で

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この記事のポイント
  • 2026年度は全47都道府県で答申が出そろい、全国加重平均1,177円(+56円・5.0%)。10月1日から12月2日にかけて都道府県ごとに順次発効する
  • 見落としやすいのは月給制の従業員 — 手当を除いて時間換算し、固定残業代は計算に入れない
  • 9月中に「対象者の洗い出し→改定額の決定→システム・書面への反映」まで終える

今年も最低賃金の改定シーズンが来ました。
2026年9月3日、全47都道府県で2026年度(令和8年度)の改定額の答申が出そろいました
全国加重平均は1,177円
昨年度から56円の引き上げで、率にして5.0%です。

7月末に示された中央最低賃金審議会の目安はAランク+54円・B/Cランク+56円でしたが、答申では33県が目安を上回りました
上振れの最大は佐賀の+65円(目安比+9円)です。
目安どおりの額で人件費を試算していた会社は、答申額で計算し直してください。

主要な都府県の答申額は次のとおりです。

都道府県改定後の額引き上げ額発効予定日
東京1,280円+54円10月1日
神奈川1,279円+54円10月1日
大阪1,231円+54円10月1日
愛知1,195円+55円10月1日
福岡1,114円+57円10月4日
全国加重平均1,177円+56円

今年も地方のB・Cランクの引き上げ幅が大都市のAランクを上回りました。
地方に事業所を持つ会社ほど影響が大きい年です。

発効日は都道府県ごとに大きく異なります。
10月1日発効は15都道府県のみで、残りは10月中旬〜12月2日に分散します(例: 佐賀11月15日・京都11月16日・沖縄12月2日)。
複数拠点の会社は、拠点ごとに発効日を個別確認してください。
47都道府県すべての答申額と発効予定日は、厚生労働省の答申状況の一覧(PDF)で確認できます。
なお、答申後の異議申出の手続きで金額・発効日が変わる可能性があります。
最終的な確定額は各労働局の公示か、厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧で確認してください。

7/28 目安答申 (済み) 9/3 全47都道府県の 答申出そろい(済み) 9月中 自社の対象者洗い出し ・改定額の決定 10/1〜12/2 都道府県ごとに順次発効 (10/1発効は15都道府県) 企業が動けるのはこの期間 発効後の対応は賃金の遡り修正リスク
図1: 2026年度改定のタイムライン。答申は出そろったので、答申額で今すぐ準備を始められる

製造業などは「特定最低賃金」もセットで確認する

ここまでの話は、都道府県ごとに決まる「地域別最低賃金」です。
これとは別に、鉄鋼・電気機械器具・自動車小売など特定の産業には、地域別より高い額の特定最低賃金が設定されている都道府県があります。
両方が適用される場合は、高い方の額を支払う義務があります。
特定最低賃金の改定は例年12月末〜年明けの発効が多く、10月の地域別対応とは別のサイクルで動きます。
「10月に地域別をクリアして終わり」と思っていると、年末にもう一段の引き上げが来ることがあります。
対象業種の会社は、自社の都道府県の特定最低賃金の有無と発効時期もあわせて確認してください。

見落としやすいのは「時給の人」ではなく「月給の人」

時給制のパート・アルバイトの改定は誰でも気づきます。
実務でつまずくのは月給制のほうです。

最低賃金のチェックは、月給を時間換算して行います。
計算式は「月給 ÷ 月平均所定労働時間」
ここでいう月給から除くものは、法令で次の4種類に決められています。

  • 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  • 賞与など、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 時間外・休日・深夜の割増賃金(固定残業代を含む)
  • 精皆勤手当・通勤手当・家族手当

逆に、この4種類に当たらない役職手当や職務手当などは計算に含めます
除外できる手当を余分に引いて計算すると、対応不要の人まで「要対応」に見えて原資の試算が膨らむので、除きすぎにも注意してください。
なお、除外するかどうかは手当の名称ではなく実態で判断されます。
迷う手当がある場合は社会保険労務士等に確認してください。

導入支援の現場で実際にあったのは、地方拠点の若手社員の月給が、手当を除いて割り返すと改定後の最低賃金をわずかに下回っていたケースです。
総支給額はそれなりにあるため、誰も疑っていませんでした。
月平均所定労働時間が長め(年間休日が少なめ)の会社ほど時間換算額は下がるので、地方×年間休日105日前後の会社は特に注意してください。

ここに注意

固定残業代は最低賃金の計算に入れられません。
「基本給を抑えて固定残業代を厚くする」給与設計の会社は、基本給部分だけで最低賃金を超えているかを毎年確認する必要があります。

この記事のチェックリストと対象者の洗い出しを1つのExcelにまとめた「最低賃金2026年度改定チェックシート」を無料で配布しています。
氏名と賃金額を入力するだけで、時間換算から「要対応」の自動判定、追加人件費の月額・年額・社会保険料込みの概算まで自動計算します。
複数拠点の会社は拠点ごとに異なる最低賃金で一括判定できます。
金額を入れ直せば毎年の改定でそのまま使い回せます。
記事末尾の無料ダウンロードフォームからダウンロードできます。

最低賃金チェックシートの入力画面。従業員ごとに時間換算額と判定が自動表示される
図2: チェックシートの入力イメージ。月給制は手当を除いた月給を入れるだけで時間換算・判定まで自動。要対応の行は赤く表示される

9月〜10月の作業チェックリスト

時系列で並べます。
給与計算を外注している会社も、対象者の洗い出しと改定額の決定は自社でしかできません。

9月中旬まで — 対象者の洗い出し

  • 自社の事業所がある都道府県の答申額と発効予定日を把握する(対象業種は特定最低賃金も)
  • 時給者:改定後の額を下回る人をリストアップ
  • 月給者:時間換算して確認。固定残業代・手当を除いた額で計算する
  • 派遣を受け入れている場合:派遣スタッフの最低賃金は派遣先(自社)の所在地の額が適用される点を派遣元と確認
  • 影響額のサマリー(対象人数と追加人件費の概算)を作り、経営層へ一次報告する。答申額ベースで早めに出すのがポイント

9月下旬 — 改定内容の決定

  • 改定方針の決裁を取る。年数百万円規模の人件費増になることも多く、担当者だけでは決められない。労働組合・従業員代表への説明もこの段階で
  • 引き上げ対象者の新しい賃金額を決める。最低賃金ぴったりに合わせるか、既存社員との賃金バランスを取って少し上げるかはここで判断
  • すぐ上の層との逆転(新しく入ったパートと勤続3年のパートの時給が並ぶ等)が起きないか、賃金テーブル全体を確認

発効日まで — システムと書面の反映

  • 給与マスタの時給・基本給を改定。発効日が月の途中の場合、その月は旧単価と新単価が混在するので、日割りで単価を切り替えられるかを事前に確認しておく
  • 雇用契約書・労働条件通知書の賃金欄を更新(時給額を明記している場合は再交付が確実)
  • 求人票・求人広告の時給表記の更新も忘れずに

10月以降 — 波及の確認

  • 割増賃金の単価が変わるので、残業代の計算基礎も自動で追従しているか初回の給与計算で検算する
  • 扶養内で働くパートの年収見込みを再計算する。時給が上がると同じ勤務時間でも年収が増えるため、本人が意図せず扶養の基準を超えることがある
POINT

今年は2026年10月に社会保険のいわゆる「106万円の壁」の賃金要件撤廃も予定されており、最低賃金の引き上げと同時期に扶養まわりの前提が動きます。

パートを多く雇っている会社は、シフトの組み方まで含めて秋のうちに設計し直すのが現実的です。

引き上げのコストは「不足額」だけでは済まない

経営層に報告する前に、コストの全体像を押さえておきます。
最低賃金対応の費用は3層で膨らみます。

  • 直接の補填:最低賃金を下回る人の引き上げ分そのもの
  • 社会保険料の跳ね返り:賃金が上がると健康保険・厚生年金などの事業主負担も増える(目安は引き上げ額の約16%)
  • 玉突きの昇給:最低賃金層だけ上げると勤続者との差が縮むため、バランスを保つには上の層も上げることになる

数字のイメージを1つ。
パート50名が対象で平均の不足が25円/時、月100時間勤務の会社なら、直接の補填は年150万円(25円×100時間×50名×12か月)。
社会保険料込みで約174万円です。
ここに玉突きの昇給を加えると、総額はさらに大きくなります。
直接の補填だけを見て予算を組むと翌年度に必ず不足するので、稟議は3層で作ってください。

最低賃金対応を「毎年の賃金テーブル見直し」に格上げする

最低賃金ぎりぎりの層だけを毎年ちょこちょこ上げていくと、数年で賃金カーブが崩れます。
新人と中堅の時給差が縮み、責任だけ重い中堅から不満が出る。
この「賃金の圧縮」は、最低賃金が毎年50円規模で上がる時代の構造的な問題です。
対症療法をやめて、10月の改定を賃金テーブル全体を点検する年次イベントとして固定してしまうのが、結局いちばん手間が少ない運用です。
等級間の差額を維持するルール(例:隣の等級と最低30円差を保つ)を一度決めておけば、毎年の判断は機械的に済みます。
なお、こうした年次の定型業務のうちAIに任せられる部分と人が決めるべき部分の切り分けは、AIは人事業務のどこで使えるかで整理しています。

原資の手当て — 業務改善助成金という選択肢

引き上げの原資が厳しい場合、業務改善助成金が使えることがあります。
事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げ、あわせて設備投資(システム導入を含む)を行う中小企業に、投資費用の一部が助成される制度です。
勤怠管理システムや給与計算ソフトの導入費用も対象になった実績があり、賃上げとシステム刷新を同時にやるなら検討の価値があります。
公募の枠と要件は年度内でも変わるため、申請前に必ず最新の公募要領を確認してください。

次にやること

まず、自社の全従業員について「時間換算した賃金額」の一覧を作ってください。
時給者はそのまま、月給者は手当を除いて割り返した額。
一覧づくりにはこの記事のチェックシートが使えます。
入力すれば時間換算・判定・追加人件費の概算まで自動で出るので、対応が必要な範囲とコストが今日中に見え、そのまま経営層への一次報告に回せます。

毎年この突き合わせが手作業になる根本の原因は、勤怠・給与・人事の情報が別々のシステムに分かれていることです。
この構造の話はSaaSを増やしても、業務はひとつにならないで解説しています。
給与システム側で最低賃金チェックを持たせる選び方もあり、unitoでは従業員マスタと勤怠から時間換算額を機械的に出せるように設計しています。
こうした年次イベントの手間をどこまで自動化できるかは、システム選定の比較ポイントのひとつです。

参考資料・出典


※本記事は2026年9月10日時点の答申情報に基づく一般的な情報です。答申後の異議申出の手続きで金額・発効日が変わる場合があるため、確定額は各労働局の公示をご確認ください。個別の労務判断は社会保険労務士等の専門家にご相談ください。